天地明察 冲方丁

天地明察 冲方丁

秋に映画化も控えてる「天地明察」の小説版(文庫版)感想です。
コミック2巻分の感想もおまけで付けます。

おまけのほうは、

天地明察 原作:冲方丁 作画:槇えびし

です。

ネタバレ含むので以下です。























簡単にあらすじ。
主人公渋川春海の青年期から壮年期、そして死までを描き出します。
改暦の儀という勝負を、幕府と朝廷を相手に行った、主人公の一生です。

上巻は北極出地をクライマックスとして春海の青年期が描かれてます。
下巻は北極出地を成した後に、改暦の儀へ挑む春海の長い、永い戦いが描かれます。

上巻では数々の出会いが描かれ、下巻では別れが描かれます。
改暦の儀へ取り組むまでにさまざまな人の願いを想いを夢を受け取っていきます。
そして、改暦の儀を成す過程でその願いを想いを夢を叶えていきます。

上巻の感想
おえんとの出会い、関との邂逅(実際に会見するのは下巻になります)、
そして、北極出地。

北極出地の中で印象的な場面を一つご紹介します。


この観測隊の隊長である、建部昌明。
病に倒れ、一時江戸へ戻ることになります。
その建部、副隊長である伊藤、春海との別れの際の会話です。
-----引用開始-----
「わしにも、一つ、大願というやつがある」
と建部が呟くように言った。口調は呟くようだったが、目は春海を見ていた。
「は・・・・・・」
春海には咄嗟に相づちを打つことしかできず、
「どのようなものでしょう?」
と伊藤がにこにこ微笑んで先を続けさせた。
「渾天儀(こんてんぎ)」
建部は、ぽつっと告げて杯を置き、
「天の星々を余さず球儀にて詳(つまび)らかにする。太陽の黄道、太陰(月)の白道、二十八宿の星図、その全ての運行を渾大にし、一個の球体となしてな。そして-」
そこで、春海が初めて見る表情を浮かべた。恥ずかしがるような、照れるような顔だ。そして両腕で何かを抱えるような仕草をしてみせ、その、何もない眼前の虚空を愛しむように、
「それを、こうして・・・・・・こう、我が双腕に天を抱きながらな・・・三途の川を渡りたいのだ」
言って腕を下ろし、
「そう思っていた・・・・・・ずっと、いつの頃からか、な」
と付け加えた。
「なんとも楽しげですなあ」
優しい顔でうなずく伊藤のそばで、春海は完全に度肝を抜かれている。
(中略)
(建部)「精進せよ、精進せよ」
(春海)「必ずや精進いたします」
-----引用終了-----

こうして春海は建部の夢を引き受けます。
その後、伊藤の夢も引き受けることになります。そのときは、
(伊藤)「頼みましたよ」
(春海)「頼まれました」
と軽く応じてしまう、春海でしたが、それが後の苦労につながることになるとは・・・

上巻では春海の心情を中心とした濃い人間ドラマが展開されます。
ヒロインのおえんはさっぱりした考えの持ち主でヒロインには到底見えません。
むしろ、実際に会うことはない一瞥即解の士:関のほうがいっそヒロインのように見えます。
注:関は男性です。念のため。
そのくらい、春海の執着は強いです。
いっそ清々しいです。
そんな中、一介の碁打ちでしかなかった春海がどうして、
改暦の儀という天下の大事に挑むことになるのか、その“フラグ”が着々と立てられていきます。
その、妙手は下巻へと引き継がれていきます。

下巻は謂わば解答編。
上巻で積み上げられた問いをもくもくと解きほどいていく展開です。
夢を託して死に行くものがたくさんたくさん出ます。
春海にも辛い日々です。
けれど、そのせいで自分も夢を託していかなければいけないのだと気付きます。
願いを想いを夢を次の世代へ。
改暦の儀を成して次の世代へ。
時間の流れが緩やかな上巻に比べて下巻は早いです。
上巻はわずか2年ほどのお話に過ぎませんが、下巻では春海が死ぬまでが描かれます。
改暦の儀は成ります。これは歴史的事実で動きません。
しかし、それをどうな成すのか、そしてどれだけの人が関わるのか、
そして、そのとき春海は・・・

歴史ドラマで数学(算術)、天文学、暦学を併せ持ち、
理系向け小説として完成しています。
余裕があれば、小説中にある”問い”を考えてみても良いかもしれません。

コミック版の話
月刊アフタヌーンで連載中です。
単行本2巻まで発売中で2巻は北極出地の出発までが描かれています。
原作の量を考えると5~6巻でしょうかこちらもなかなか面白いです。
中表紙の漫画も込みで。2巻巻末の原作者直筆4コマも面白いです。
算術の問題に絵がつくのは大きな利点です。


以上、天地明察面白かったです。
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by yukrid71 | 2012-06-09 19:19 | 小説